生物学的製剤、細胞内伝達阻害剤の作用点

関節リウマチ(RA)発症に関係する情報はマクロファージを通じてTリンパ球に伝えられます。その結果、RA炎症を引き起こす炎症性サイトカイン(TNFやIL-6など)が産生されます。この炎症性サイトカインが免疫担当細胞(各種リンパ球)の表面受容体を介して情報が伝達され、さらに過剰な炎症性サイトカインが産生されます。このように過剰に産生された炎症性サイトカインが関節内の滑膜細胞や破骨細胞を活性化させ、滑膜炎や骨破壊を起こしてしまいます。

生物学的製剤はマクロファージとT細胞の情報伝達を阻害したり、免疫担当細胞の受容体に炎症性サイトカインがくっつくのを阻害します。細胞内伝達阻害剤(トファシチニブ)は受容体から伝わった情報が細胞核に伝わるのを阻害する薬剤です。

生物学的製剤の比較インフリキシマブ(IFX),エタネルセプト(ETN)に引き続き,新に2008年にはIFXの完全ヒト型化された,皮下注射剤のアダリブマブ(ADA)とIL-6の働きを阻害するトシリズマブ(TCZ)が日本で認可されました。また、2010年にはT細胞の共刺激経路を阻害することによりナイーブT細胞の活性化を調節するアバタセプトが我が国5番目の生物学的製剤として認可されました。さらに、2011年9月には、ADAと同じ抗TNF阻害剤で4週に1回皮下注射するゴリムマブ(シンポニー)が使用可能になりました。2013年には、セルトリズマブ・ペゴル(シムジア)が、さらに、2013年に点滴製剤であるトシリズマブとアバタセプトの皮下注射剤が発売されました。

それぞれ7剤とも関節リウマチに著効しますが,阻害するサイトカインの種類,投与経路,投与間隔,メトトレキサート(MTX)との併用の有無などに違いがあります。有効性,有害事象においては同等と考えられます。1剤無効例に対して他の生物学的製剤にスイッチしても多くの症例で有効であることが示されています。いずれも高価な薬剤には違いありませんが,生物学的製剤の選択肢が広がったのは間違いありません。

アバタセプト(オレンシア)

2010年9月より日本で5番目の生物学的製剤として承認されたリウマチ治療薬がアバタセプト(オレンシア®、ABT)です。従来のTNFαやIL−6を抑制する生物学的製剤とは違って、T細胞の働きを抑制する新しい作用機序を持った製剤です。投与禁忌や副作用の種類は他の生物学的製剤とほぼ同じです。

アバタセプトの投与スケジュール

初回投与後、2週目、4週目、以後、4週毎に点滴静注します。点滴時間は30分です。

投与量は60Kg未満では500r、60Kgから100sでは750r、100s以上では1gを投与します。

アバタセプトの投与スケジュールを示します。投与初日には点滴静注で30分かけて負荷投与を行った後に皮下注射に、その後は1週間ごとに皮下注射を行います。また、負荷投与については行わずに、最初に皮下注射から始めることもできます。点滴静注から皮下注射に切り替える場合には、予定されている次回の点滴静注の代わりに、本剤の初回皮下注射を行うことになっており、負荷投与は不要です。

このスライドは、ACR 20、50、70 および90 を達成した患者の割合を経時的に示しています。

ACRの全スコアに対する改善率の推移は、両群間で類似していました。

ACR20改善率は29日目にアバタセプトSC群とアダリムマブ群で42.5%および47.6%であり、また値の推移は試験期間を通して両群で同様でした。

なおACR改善の様子は、両剤とも2年間を通して同程度でした。

アバタセプト(オレンシア®)の関節破壊抑制効果をアダリムマブ(ヒュミラ®)と比較検討しています。

評価方法は、シャープ変法(mTSS)による累積確率プロット(Cumulative Probability Plot)という方法です。

個々の患者さんのアバタセプト投与前と2年目での関節破壊の変化量を縦軸にとり個々の患者さんを横軸に変化量の少ない順に並べたものです。

結果は、関節破壊が進行してない患者さんの割合は、アバタセプト群1年目で87.8%、2年目で84.8%、アダリムマブ群1年目で88.6%、2年目で83.8%と両群に差はなく、両薬剤とも大多数の患者さんが関節肺の進行を阻止しています。

アバタセプト(オレンシア®)の点滴治療(IV)と皮下注射治療(SC)の効果を比較検討しています。

両治療法によっても、同等の有用性を示しており、差がないことがわかりました。

ACR20,50,70(臨床症状がそれぞれ20%、50%、70%改善した患者さんの割合)

メトトレキサート(MTX)を併用した群も併用せずアバタセプト(オレンシア®)の単剤療法でもその有効性には差を認めませんでした

アバタセプト(オレンシア®)皮下注射(SC)した患者さんでメトトレキサート(MTX)を併用した群と併用しなかった群の患者さんにおいて治療後、寛解に達した患者さんの割合を示しています。

MTX非併用でも併用でも差がないことがわかりました。

1年間インフリキシマブ(レミケード®)で治療したにも関わらず、無効であった症例(高、中等度疾患活動性)をアバタセプト(オレンシア®)にスイッチしたところ49.4%の患者さんに有効であることがわかりました。

ORION試験から見たアバタセプト(オレンシア®、ABT)のDrug Freeの可能性

以上より、ABTによって寛解に達した症例では,約40%がABTを中止しても52週は寛解が維持され、関節破壊の進行も認められなかった。

海外のATTEST試験のデータですが、アバタセプト(オレンシア®)とインフリキシマブ(レミケード®)に生じた有害事象についての比較結果です。

重篤な有害事象、感染症などインフリキシマブに比べて有害事象は少ない結果でした。

高齢者および障害者向け公的医療保険制度であるMedicareの保険請求データからは、100人・年当たりの入院を要する感染症の発生リスクでは、アバタセプト(オレンシア®)は他の生物学的製剤と比べて、同等かやや少ない程度でした。

各生物学的製剤の国内市販後調査(PMS)報告における副作用

IFX(インフリキシマブ、レミケード)、ETN(エタネルセプト、エンブレル)、ADA(アダリムマブ、ヒュミラ)、TCZ(トシリズマブ、アクトネル)、ABT(アバタセプト、オレンシア)、GLM(ゴリムマブ、シンポニー)で治療された患者さんの内、入院を要するような重篤な副作用(AE)が出現した割合は2.4〜7.5%でした。主な重篤なAEの内訳は、ほとんどが、一般の感染症で、他の抗リウマチ薬にみられるような血液、肝、腎障害など全身の諸臓器障害の出現が極端に少ないということです。

感染症対策を十分に行うことで、生物学的製剤治療の副作用を抑えることが可能と言えます。

オレンシア®の4週あたりの自己負担額をお示しします。

オレンシア®の皮下注射は2014年9月より長期投与が可能となりました。

臨床症状が安定した段階では長期投与が可能となります。たとえば、一度に10本(10シリンジ)を持ち帰り10週毎に受診することになれば、受診時にお支払する自己負担額は薬剤費のみで8万円を超えることになり、一般収入で3割負担の方でも高額療養費制度の適応になります。

一方、点滴注射の場合は毎週、3~5万円の自己負担額ですから高額療養費制度は適応されません。

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